自分以外、みんな楽しそうに生きている。そう感じたことはありませんか。自己肯定感が高い人は、良好な人間関係を築き上げ、主体的な行動ができています。ときに、その堂々とした立ち振る舞いが眩しく見えます。
一方で、自己肯定感が低い人ほど、主体性が低く、人の目が気になり、他人を頼ることも苦手な人が多いです。中には「自分はだめな人間だ」と思っている方もいるかもしれません。実は、そういったネガティブな感情を受け入れることが、自己肯定感を上げる一歩につながりやすいのです。ここでは、自己肯定感を高める方法と、自己肯定感が及ぼす影響を解説していきます。読み終わったあとに、自分は自分でいいのだと感じていただけたら幸いです。
自己肯定感とは
自己肯定感とは、「なんでもできる!」という万能感に満ちた考え方ではなく、「現在の自分を自分であると認める感覚」※1と定義されています。いいかえれば「できなくても自分は自分」と自分自身を受け入れることといえます。
自分自身を受け入れられることは、人生の軸にもなり軸が定まっていれば、精神的に誰かに依存することも少なく、失敗しても素直に物事を受け止め立ち直ることができたり、他人の支援を素直に受けやすくなったりします。
自己肯定感をつくり上げている要因はいくつかありますが、大きく分けると「自律」「自信」「信頼」「自己受容」です。
- 自律:自分で立てた規範に基づき、自分のことを自分で行うこと。
- 自信:自身の能力や価値を信じ、自分の行為や考え方を信じて疑わないこと。
- 信頼:ある人や物を信じて頼ること。
- 自己受容:自分をありのままに受け入れ許すこと。
では、これらを身に着けていくために、どのようなことをすればよいのでしょうか。
自己肯定感を高める4つのアプローチ
ここでは、自己肯定感が低いと自分で想っている方に向けて、実際に自己肯定感を高めるためにはどのようなことが効果的なのかを解説します。
より良い人間関係を築き上げるコミュニケーション
良い人間関係を築くコミュニケーションは、自己肯定感を高めるうえでも大切です。なぜならば、相手との信頼関係にもつながるからです。効果的な手法はいくつかありますが、重要なのは不用意に相手の領域に踏み込まないことです。人間には育ってきた環境や生まれ持った気質、抱えている疾病や体験など、さまざまな背景があります。それに基づいた思考や感情は自分の領域です。
例えば、「悩みがなさそうでいいね」などと他人に自分のことを決めつけられて「何も知らないくせに」と腹が立った経験がある人もいるのではないでしょうか。相手に知ったような口をきかれて腹が立つというのは、自分の領域を侵害されたからです。
このように、自他の領域の概念を持っておくことは非常に大切です。
また、相手の領域を尊重したコミュニケーションをとるためにも、自分の意見は主語を「私は」にした、I(アイ)メッセージで伝えると相手も受け入れやすいです。。「あなたはどうして〇〇してくれないのですか」よりも「私は困っているので〇〇してくれると助かるのですがお願いできますか」という伝え方のほうが、相手も受け入れてくれやすいですし角も立ちにくいでしょう。
自分の領域と相手の領域を守り尊重することができれば、より良い人間関係を築きやすいでしょう。
成功体験を積み上げるPDCAサイクル
PDCAサイクルとは、Plan(計画)Do(実行)Check(評価)Action(改善)を繰り返し、継続的に改善していく手法です。このサイクルをうまく活用することで、効率よく成功体験を積み上げ自信をつけやすいです。
PDCAサイクルを上手く回す方法としておすすめなのが、手帳をつけることです。ただ手帳をつけるだけでなく、下記のようなポイントを踏まえて自分の傾向を知れると成功体験を積みやすいです。
- どんなことに衝撃を受けたのか
- そのときどう感じたのか
- どんなときに楽しいと感じたのか
- 長時間やり続けられることはなんなのか
- すぐあきらめるのはどんなときか
こうしたことを手帳に書き加えておくことで、自分の思考や行動パターンの傾向を知れて、自分自身に対する理解を深めることができます。自分の行動や選択を、自分の規範の基に決定づけるという意味でも、自分の特徴を知っているのは重要なことです。
この振り返りは、自分を振り返るだけでなく新しい自分を作っていく指標となります。自分の強みが分かればそれをさらに伸ばし、弱みがあるのならそれを改善できるからです。手帳をつけることで、今まで見えていなかった自分が見えてくるだけでなく、自分で工夫を凝らし新しい自分を作っていくことができるのです。
そして、失敗してしまったときにも、「失敗してしまった、どうして自分はだめなんだろう」という思考で終わるのではなく、どうして失敗したのかを客観的にとらえ、その行動パターンを振り返る内省が大切です。失敗は成功のもとというように、失敗を積み重ねたその先に成功があるからです。
このように、がむしゃらに努力を重ねて疲弊するのではなく手帳をつけることによって上手くPDCAサイクルを回すことができます。ありのままの自分を肯定しつつ、自分への理解を重ね対策や改善を重ねることで、自己肯定感を上げていきましょう。
安心できる相談者を見つける
自己肯定感が低い人は、人に頼ることや甘えることが苦手な人が多いです。「誰かに迷惑をかけたくない」「弱みを見せられない」という感情にとらわれて一人で頑張り過ぎた結果、心身を病んでしまうことがあります。
しかし、外見的に良い人そうに見えたり、頭が良さそうに見えても、相談をした相手があなたに害を及ぼさないとは限りません。自分の悩みやつらさを打ち明けるのは勇気や労力が必要です。
せっかく相談したのにモヤモヤした気持ちになってしまったら、もっとつらいですよね。そのため、安心できる相談者を選びましょう。安心できる相談者の特徴として下記のポイントがあります。
- 頭ごなしに否定しない
- 求められない限りアドバイスをしない
- 口が堅い
- 考えを尊重してくれる
- 結論を押し付けない
- 分からないことは素直に分からないと言ってくれる
これらのことを守ってくれる相談者に相談しましょう。家族や友達に相談するのが難しければ、精神科に行き医師やカウンセラーなどへの相談もおすすめです。意見をくれる相手を見つけておくと、自分を客観視することもできます。
自己肯定感が低い人は、全部一人でやり遂げようとする傾向が高いので、まずは人に頼ることから始めましょう。いくら人に頼るのが苦手でも、人は一人では生きていけません。また、相手に依存し過ぎて利用されたりしないように、安心できる相談相手を選ぶことは、とても大切なことです。
自分自身を知ることは、自己肯定感を高める一番の近道といっても過言ではありません。
自分の得手不得手や行動パターンを知ることで、「これは苦手だから人に頼ろう。得意だからもっと難しいことに挑戦してみよう」という自己成長につなげることができます。
自己肯定感の低い人は「自分は相手にどう思われているだろう」と人の目が気になりがちです。その自信のなさを、過剰な労力や我慢で補おうとして心身を疲弊させてしまうことも珍しくありません。こういうときは、あらかじめ弱みを出してしまうのも一つの手です。
例えば、「私は緊張しやすいのですが、温かく見守っていただけますと幸いです」「声が聞き取りにくければ遠慮なくおっしゃってください」など、始めに弱みを出してしまえば相手側も「少し聞きとりにくいです」といったように意見を出しやすくなります。中には助け船を出してくれる人もいるかもしれません。
このように、自分自身をさらけ出すことで、相手からの共感や助けを得ることもできるのです。自分自身を知ることで物事への対策がとりやすくなることは、自己肯定感を高める近道といえるでしょう。
自己肯定感が高いことと自信過剰の違い
いつも堂々としている人、強そうな人、をイメージしたときに、威張っている人が思い浮かぶことがりませんか? 職場にいる怖い人、学校にいるいじめっこ、彼ら彼女らは、自己肯定感が高いから強い態度でいるのでしょうか。実はそうではありません。では、自己肯定感が高いことと、自信過剰の違いはなんでしょう。
自己肯定感が高い人は、自分のことも相手のことも尊重したコミュニケーションをとることができます。一方で、自信過剰とは自らを過大評価し過信していることなので、自信過剰の人は相手を尊重することが苦手です。
実は、自信過剰な人は自己肯定感が低い傾向にあります。威張り散らして権威を見せつけたり、攻撃をする人は、実は自己肯定感が低く困っている人かもしれません。
例えば、あなたが新入社員として職場にきたときに、新人いびりをする先輩がいるとします。それは、あなたの存在を脅威に感じているのです。人は、脅威や畏怖を感じたものを排除しようと攻撃しがちです。
このように自信過剰な人は、自己肯定感の低さから他人を攻撃しがちです。
一方で、自己肯定感が高い人は、自分のことも相手のことも尊重したコミュニケーションを取ることができます。自分に自信を持つことは素敵なことですが、自分だけでなく相手も尊重したコミュニケーションを大切にしたいですね。
自己肯定感はウェルビーイング(幸福感)を高める
自己肯定感がもたらす「ありのまま感」は、ウェルビーイング(幸福感)を高めます。ありのままの自分には、幸福感や満足感といったことだけでなく、不幸感、苦痛、恐怖、自分が被害者であるといったことも含まれます。こうした自分自身の側面を認めるのは非常に苦しい作業です。
しかし、今あなたが感じる主観や感覚や感情を、誰とも比べないあなたのものとして承認すること。それが、あなたのウェルビーイング(幸福感)を高める第一歩となります。
人は常々、他人と自分を比べます。その中で、「あの人は素敵だな、ああいう人になりたいな」というポジティブで憧れの感情を伴う比較を上方比較といい、これは日常的に馴染みのあるものです。
一方で、「わたしはこの人よりずっとマシだから我慢しなきゃ」といった感覚を伴う下方比較は、自尊感情を著しく損壊されたときに生じます。つまり、自分よりもっと不幸な境遇にある人を見て、「自分より大変な人はいるのだから、我慢しなきゃ」と考えているあなたは、傷付いている(または傷付けられた)のです。
日本では、「もっと大変な人がいるのだから自分の不幸などなんてことはない。我慢するべきだ」と考えがちです。自分の不幸と他人の不幸を比べ、一時の安寧を得る行為。実は、この安寧は長続きしません。この辻褄合わせの安寧が失われたとき、人はどんな行動を取るでしょうか。我慢して苦境に堪える自分(不幸な自分)を納得させるために、我慢をせず気楽に過ごしている他者を憎悪して引きずり落とそうとする人もいます。耐えて我慢をすることの美徳を振りかざして他者を攻撃する。それは、他者への強制であり、歪んだ正義ともいえます。
そうならないためにも、あなたは堂々と、ありのまま自分の不幸なことでも認めましょう。こうして、自己肯定感を高める方法を検索しているあなたは、生きるのが苦しかったのではないでしょうか。果てしない怒りや憎しみ、途方もない悲しみがあったのではないでしょうか。
あなたはあなたの幸せのために、あなたの不幸を認めましょう。不幸感、苦痛、恐怖、それらを認めるのは非常に苦しい作業です。
しかし、今あなたが感じる主観や感覚や感情を、誰とも比べないあなたのものとして承認しましょう。幸も不幸もない混ぜにした一人の人間。ありのままの自分を認めることが、あなたのウェルビーイング(幸福感)を高める第一歩となります。
それが、下方比較から生じる、乾ききった忍耐、他者への強制や歪んだ正義感への制御にもつながるのです。
まとめ
自己肯定感が低いのは、あなたのせいではありません。人は幼少期に家族とのつながりのなかで、愛し愛され自己肯定感を得ていきます。十分に愛情をもらうことができなかった人もいることでしょう。では、幼少期に愛されなかった人は、自己肯定感を得ることはできないのでしょうか。そんなことはありません。
自己肯定感が低い人のための魔法の言葉があります。それは「今はこれでいい」です。この言葉を呟いたら、不安や悲しみを打破するための行動を起こしてみましょう。美味しいものを食べるも良し、布団でゆっくり休むも良し、自分を守るために、自分を受け入れるために、何か好きなことをしてみてください。
人間は基本的にネガティブな生き物なので自分を好きになれるように作られていません。でも、好きなことをしているときは、なんとなく自分を好きになれるものです。まずは、こんな自分もまあいいかな。と思える落としどころを見つけることから始めましょう。
心配せずとも、人は前進する生き物なので、なんとかなることがたくさんあります。
「自分は自己肯定感が低い、でも、今はそれでいい。ありのままの自分でいい」そんな、自己肯定感が低い後ろ向きな自分も受け入れてあげましょう。それが自己肯定感を高める始めの一歩です。
あなたから見た自己肯定感が高い人は、堂々立ち振る舞っていて、皆に好かれていて、眩しくて目を背けたくなることがあるかもしれません。でも、どんなに深い喜びの海にも、ひとつぶの悲しみが混ざっていないということはないのです。絶対的に強い人間、壊滅的に弱い人間はいません。弱いところも、強いところも合わせ持っているのが人間です。
自己肯定感が高い人も低い人もみんな、どこにでもいるありふれた、かけがえのない自分です。
機能不全家族の特徴とは?子供との関り方に悩み・苦しみを感じている人へ
自分らしく働くために必要な6つのポイントとは?満足した生活を送る考え方について解説!
参考文献
※1 樋口善之,松浦賢長(2002).自己肯定感の構成概念および自己肯定感尺度の作成に関する研究 母性衛星43(4):500-504.
※2 田島賢侍,奥住秀之(2014).障害・疾病・不登校などのある児・者を対象にした自尊感情・自己肯定感の文献検討65:283-302.
※3 水島広子(2014).「聴き方・話し方」のコツ 日本実業出版社.
※4 井上結紀(2020).10代から身につけたい ギリギリな自分を助ける方法 角川文庫.
※5 菅原裕子(2011).親のためのコーチング子育てに疲れたときに読む本 学研プラス.
※6 水島広子(2014)10代のうちに知っておきたい折れない心の作り方 紀伊国屋書店.
※7 伊藤正哉,小玉正博(2005).自分らしくある感覚(本来感)と自尊感情がじぶんwell-being に及ぼす影響の検討 教育心理学研究 53::4-85.